302.静かに美男子でいる

九条政の顔色が何度も白と黒を行き来する中、九条結衣は冷静に藤堂澄人を一瞥しただけだった。

「黙って座っていなさい」

確かに藤堂澄人の持つ十五パーセントの株式は魅力的で、今後の計画実行にも有利だったが、彼女は藤堂澄人からそんな大きな恩を受けたくなかった。

それに、藤堂澄人の言葉が本当なのかどうかも分からない。

九条結衣は信じていなかったが、九条政は真に受けていた。

一つには、この頃の藤堂澄人の九条結衣への想いは誰の目にも明らかだったし、もう一つには、二人の間には今や三歳になる息子がいた。

藤堂家の長男の嫡孫、それこそが九条結衣が持つ最大の切り札だった。

初が数百億円程度で比べられるはずがない。

藤堂澄人が九条結衣に株式を譲ると言ったのは、あながち嘘ではないのかもしれない。

「澄人、よく考えろよ。株式を彼女に渡したら、九条グループに君の居場所はなくなる。それに離婚したんだろう?この株式で彼女の心が戻ると思うのか?」

離婚?

出席していた株主たちは、まるで衝撃的な秘密を聞いたかのように、明らかに愛を振りまいているように見えるこの夫婦を信じられない様子で見つめた。まあ、現状を見る限り、藤堂社長が一方的に愛を振りまいているように見えたが。

本当に離婚したの?

九条結衣は、九条政がそう言うのを聞いた時、思わず眉をひそめた。

彼女は自分のプライベートな事を人前で話されるのが嫌いだった。九条政という男は、藤堂澄人を止めるためなら、本当に何でもする下劣な人間だった。

九条政は二人の離婚という事実を「注意喚起」することで、藤堂澄人が先ほどの提案を躊躇うと思ったのだが、彼は冷たい目で九条政を見つめるだけだった。まるで打ちのめされた落ち犬を見るような目つきで。

「たかが九条グループ如きを、俺が欲しがると思っているのか?この十五パーセントの株式で妻が喜ぶなら、譲ったって構わないだろう?」

九条結衣は、藤堂澄人のこの皮肉めいた「愛の言葉」を聞いて、思わず口角の筋肉が引きつった。

「藤堂澄人、黙れないの?」

彼女は、取り入ろうとする藤堂澄人の様子を冷ややかに見つめ、我慢できずに口を開いた。

藤堂澄人が大人しく椅子に座り、本当に一言も発しなくなるのを見て。