302.静かに美男子でいる

九条政の顔色が何度も白と黒を行き来する中、九条結衣は冷静に藤堂澄人を一瞥しただけだった。

「黙って座っていなさい」

確かに藤堂澄人の持つ十五パーセントの株式は魅力的で、今後の計画実行にも有利だったが、彼女は藤堂澄人からそんな大きな恩を受けたくなかった。

それに、藤堂澄人の言葉が本当なのかどうかも分からない。

九条結衣は信じていなかったが、九条政は真に受けていた。

一つには、この頃の藤堂澄人の九条結衣への想いは誰の目にも明らかだったし、もう一つには、二人の間には今や三歳になる息子がいた。

藤堂家の長男の嫡孫、それこそが九条結衣が持つ最大の切り札だった。

初が数百億円程度で比べられるはずがない。

藤堂澄人が九条結衣に株式を譲ると言ったのは、あながち嘘ではないのかもしれない。