306.離婚したのかしてないのか

九条結衣が彼の隣に座ると、松本裕司は慌てて車のドアを閉めた。命の恩人である社長夫人がいつ気が変わって降りてしまうかと心配だったのだ。

九条結衣:「……」

松本裕司は彼女が逃げ出すのを恐れているのだろうか?

一行は会社に戻り、藤堂澄人と九条結衣は並んで社屋に入っていった。

社員たちは最初に藤堂澄人の額に巻かれた厚い包帯に気づき、驚きの表情を浮かべた。

社長はいったい……?

そのとき、受付の誰かが藤堂澄人の隣を歩く背の高い、気品のある女性がすぐに分かった。4年前に会社を訪れ、松本秘書に離婚協議書を渡した社長夫人ではないか?

なぜ彼女が来たの?

社長の口元に浮かぶ笑みを見ると、機嫌がいいようだが?

九条結衣の身分を知っている受付の社員たちは、内心驚きながら、そっと藤堂澄人の頭の傷に目を向けた。