木村靖子は木村富子に大義を説き始めた。「お母さん、私たちまで終わってしまったら、叔父さんを守れる人はいなくなってしまうわ」
木村富子はこの言葉を聞くと、顔の迷いが即座に確信に変わった。「そうね、あなたの言う通りよ。今すぐ叔父さんに電話するわ…」
そう言いながら、ソファの横の固定電話を手に取ろうとした時、使用人が外から慌てて走ってきた。「大変です、奥様!木村さんが…木村さんが外で…」
「何ですって?」
木村富子は受話器を持つ手が激しく震え、ソファから立ち上がった。「はっきり言いなさい」
使用人の青ざめた顔色を見て、木村富子は心臓が激しく鼓動した。
「木村さんが正門の前に放置されていて、ひどい…ひどい重傷を負っているようです」
木村富子と木村靖子は同時に両足の力が抜け、顔から血の気が引いた。しばらくして、やっと気を取り直し、「見に行きましょう」
木村家の別荘の玄関前で、木村城は息の絶えた魚のように動かずに横たわっていた。
「城!」
木村富子は叫び声を上げ、玄関に向かって走り寄った。木村城はすでに気を失い、息も弱々しかった。
「木村さん」
低い声が、彼女の正面で響いた。
木村富子が顔を上げると、別荘の玄関前に黒いマセラティが停まっているのに気づいた。声と同時に、マセラティの後部ドアが開き、黒いスーツを着て、金縁の眼鏡をかけた松本裕司が車からゆっくりと降りてきた。
彼と一緒に降りてきたのは、体格の良い、黒いサングラスをかけた男性が二人。見たところ、ボディガードか手下のようだった。
松本裕司を見て、木村富子と木村靖子は同時に震え、心の底から冷たくなった。
松本裕司がここに来て、しかも瀕死の木村城を連れてきたということは、何を意味するのか?
それは…藤堂澄人が知ったということだ。
母娘の瞳孔が恐怖で縮んだ。松本裕司の無害そうに見えて主人に劣らず残虐な表情を見て、木村靖子は唾を飲み込み、先に声を上げた。「松本秘書、どうして…どうしていらっしゃったんですか?」
松本裕司は鼻梁の金縁眼鏡を押し上げ、儒者のような穏やかな雰囲気を漂わせていたが、目の前で瀕死状態の木村城がこの男によって廃人にされたとは誰が想像できただろうか。