328.彼女は藤堂澄人でさえ手を出せない人

九条結衣がどんなに彼に優しくしても、彼は自ら進んで九条結衣の代わりに立ち上がり、彼女を泥沼に突き落とし、惨めな思いをさせるのだった。

彼女は歯を食いしばり、不満げに松本裕司を見つめ、苦笑いを浮かべながら言った。「藤堂澄人はなぜ私にこんなことをするの?私は彼に対して何も悪いことをしていないのに」

彼女は納得がいかず、低い声で苦々しさと哀れみを滲ませた。

松本裕司は彼女の恵まれた表情を一瞥し、表情を変えずに言った。「でも、あなたは我々の社長でさえ手を出せない人に関わってしまった。それがあなたの過ちです」

最初から最後まで、松本裕司の話し方と表情は穏やかだったが、その言葉は一言一言が心に突き刺さるようだった。

藤堂澄人でさえ手を出せない人って何なの?九条結衣のあの賤人、本当に手強いわね。

でも藤堂澄人がこうまで九条結衣を守るなんて、木村靖子はますます納得がいかなくなった。「彼がどうしてこんなに冷たくできるの?あの時、私は彼のために命を懸けたのに、これが私への報いなの?」

この言葉を聞いて、松本裕司は完璧に保っていた表情が思わずひきつり、心の中で木村靖子に白眼を向けた。

表面上は相変わらず笑みを浮かべながら木村靖子に言った。「木村さん、いつまでも昔のことを持ち出さないでください。藤堂社長から得たものは、あの時の恩に十分見合うものでしょう。それに……」

ここまで言って、彼は突然不気味な笑みを浮かべた。「あの時、本当は何があったのか、まだわからないんですよ。あの時、社長は奥様に怒りで頭が混乱していて、最適な調査時期を逃してしまいました。八年経った今でも、社長が何も見つけられないことを祈った方がいいですよ。もし見つかったら……」

松本裕司は言葉を最後まで言わず、瀕死の木村城を一瞥しただけで、車に乗り込んだ。

彼は社長からの警告を全て伝え終えた。これが社長の最後の慈悲だろう。この母娘がまだ社長の底線を踏み越えようとするなら、本当に終わりだろう。

黒いマセラティが木村家の別荘から走り去ると、木村靖子母娘は地面に崩れ落ちた。二人の背中は冷や汗でびっしょりと濡れていた。

あの時のこと、彼女たちはあれほど秘密裏に行い、木村靖子自身を犠牲にしてまで藤堂澄人の信頼を得た。八年経って、あの時のことは過去のものになったと思っていたのに、先ほどの松本裕司の言葉は……