背後から、藤堂澄人の近づいてくる足音が聞こえ、九条結衣は足を動かそうとしたが、藤堂澄人に後ろから抱きしめられた。
「もう一度結婚しよう、どう?」
温かい抱擁は広々として力強かったが、九条結衣の体は凍りついたままだった。
藤堂澄人の言葉には、かすかな懇願の色が混じっていた。彼女の承諾を切望するような懇願だった。
「戻ってきてくれないか?」
藤堂澄人の声は、先ほどよりもさらに掠れていた。
九条結衣のバッグを持つ手が微かに震え、なぜか心に恐れが芽生えていた。
あの三年間の冷遇と無視への恐怖が、再び彼女の脳裏に浮かび、幾度となく心を引き裂いていった。
この瞬間、彼女は深く悟った。藤堂澄人が与えた傷は、実は一度も癒えていなかったのだと。
ずっと自分を欺いていただけだった。考えないようにすれば、乗り越えられたと思い込んでいた。でも忘れていた。少しでも思い出せば、すべての記憶は鮮明で、骨身に染みついていて、触れれば痛むのだと。