320.男は自分に厳しくあるべきだ

不思議ですね。社長の様子を見ていると、明らかに奥様のことを大切にしているように見えます。自ら奥様の食事を買いに行くほどなのに。

皆が密かに噂をしている中、藤堂澄人はそれを知らずに、九条結衣のために自ら買った昼食を持って上階に向かおうとしていた時、外から戻ってきた田中行とばったり出会った。

田中行は彼が手に持っている食事を軽く一瞥し、唇を少し歪めて、彼の額の傷に目をやると眉をひそめて尋ねた。「松本裕司から聞いたんだが、結衣を助けるために棒で殴られたそうだな？」

田中行にそのことを聞かれ、藤堂澄人の無表情だった顔に冷たい色が浮かび、その目の奥に一瞬殺意が閃いた。

「大したことじゃない。些細なことだ。」

彼は昨夜の出来事について触れたくなかった。昨夜のあの暴漢たちは、明らかに結衣を狙って来たものだった。誰の仕業かは、おおよその見当がついていた。