「藤堂澄人」
九条結衣は我慢強く、ドアの枠に手をかけ、藤堂澄人が押し入るのを阻止しようとしたが、ドアを完全に閉める力はなかった。
二人は内と外に立ち、互いに譲らなかった。
「入れてくれ」
藤堂澄人の声は少し掠れており、何とも言えない感情が混ざっていた。
「話があるなら、ここで話して」
彼女は冷たく言い放ち、彼の額に巻かれた包帯の血の色が濃くなっているのを意図的に無視した。
「入れてくれ」
藤堂澄人の声は更に冷たくなり、暗い瞳には焦りと苛立ちが浮かんでいた。
九条結衣はようやく藤堂澄人の体からかすかなアルコールの匂いがするのに気付いた。それほど強くはなかったが、注意深く嗅げば分かる程度だった。
「お酒を飲んだの?」
彼女は眉をひそめ、我慢しようとしたが結局抑えきれずに、そう尋ねた。