340.すごいぞ、私のボス

「奥様がいらっしゃいました。社長、早く気を失ってください」

藤堂澄人の額には、細かい汗が浮かび、松本裕司を冷たい目で見つめた。

松本裕司は自分のボスが理解していないと思い、さらに声を落として急いで付け加えた。「苦肉の策です。奥様が来たので、早く気を失ってください」

藤堂澄人は彼に冷ややかな視線を送り、何か言おうとした瞬間、突然地面に倒れかけた。松本裕司が間一髪で支えなければ、頭から地面に倒れていたところだった。

自分のボスの青ざめた顔色と意識を失った様子を見て、松本裕司は心の中で藤堂澄人に thumbs upを送った。

さすがです、ボス!

演技が素晴らしすぎる。

「社長、奥様がいらっしゃいました」

彼が小声で知らせたが、支えている人物からは全く反応がなかった。松本裕司は心の中で、ボスは役になりきるのが早いなと思った。

責任感のある秘書として、松本・母性的・名優・裕司はすぐに慌てた表情を浮かべ、駆けつけてきた九条結衣に向かって急いで言った。「奥様、どうしましょう?社長が気を失ってしまいました」

九条結衣は松本裕司を無視し、携帯電話を取り出して慌てて救急車を呼んだ。「もしもし?救急車ですか?……」

救急車を呼び終えると、九条結衣は冷静な様子で藤堂澄人の側に歩み寄り、彼のシャツを緩め、松本裕司に言った。「平らに寝かせて、もう動かさないで」

「は、はい」

クラブの人々はすでにクッションを持って走ってきており、それを地面に敷いて藤堂澄人を寝かせた。九条結衣の表情からは焦りの色は見えなかった。

しかし、よく見ると、彼女の体の横に垂れた手が微かに震えているのが分かった。

彼女の視線は、血の気の失せた藤堂澄人の顔に注がれていた。彼の口角にはまだ薄い血の跡が残り、胸元の白いワイシャツは血で大きく染まり、見るに堪えない状態だった。

「奥様、社長は大丈夫でしょうか?」

胃からの出血は軽いことも重症なこともある。松本裕司はボスに気絶の演技をさせたものの、紙のように青ざめた顔を見ると、心配になってきた。

「分からない」

九条結衣は表情を引き締めて冷たく答えた。ちょうどそのとき、救急車が時宜を得たように到着し、担架を持った救急隊員が急いで走ってきた。

「結衣?」