藤堂澄人は手を離そうとせず、ただじっと彼女を見つめていた。まるで我儘な子供のように。
表情には何も表れていなかったが、顔色は次第に悪くなっていった。
「いいわ、入りましょう」
藤堂澄人は九条結衣が最後に同意してくれたのを見て、顔を輝かせたが、手は相変わらず九条結衣の腕を離さなかった。
九条結衣は彼を支えて部屋に入り、二人は廊下に立ったまま可哀想な振りをしていた木村靖子を完全に無視した。
木村靖子は、九条結衣が自分が藤堂澄人を抱きしめているのを見ても何の反応も示さず、藤堂澄人を見捨てて去るどころか、むしろ彼と一緒に残ることを予想していなかった。
先ほどの藤堂澄人が九条結衣に対して示した卑屈な態度と、病室で彼女を追い出そうとした時の態度を比べると、木村靖子は歯ぎしりするほど腹が立った。