365.離れがたい

九条結衣はようやく彼の様子がおかしいことに気づいた。自分の手首に触れている彼の手が冷たく、胸が締め付けられる思いで眉をひそめて尋ねた。「どうしたの?」

「何でも...」

言葉を発した途端、また口から血が溢れ出し、彼のシャツを真っ赤に染めた。出血量はかなり多かった。

「藤堂澄人!」

目の前で彼の顔色が悪くなっていくのを見て、普段は冷静な彼女の瞳に一瞬、動揺の色が浮かんだ。

「結衣、もう一度チャンスをくれ...」

彼の体はふらつき、もう立っているのがやっとの状態だったが、それでも全力で彼女をつかもうとした。まるで意識を失えば、彼女が去ってしまうことを恐れているかのように。

渡辺拓馬が駆けつけた時、藤堂澄人はすでに意識を失っていた。その顔色の悪さに渡辺拓馬も思わず眉をひそめた。必死の救命処置の後、ようやく容態は安定した。

「心拍数が異常に速く、血圧も低下、重度のショック症状です。一体何があったんですか?」

渡辺拓馬はマスクを外し、表情の硬い九条結衣を見つめながら眉をひそめて言った。

「また何かやらかしたのか?真夜中に大人しく寝ていればいいものを、何で起き出したんだ?自分の状態がどれだけ深刻か分かってないのか?」

九条結衣はベッドの前に立ち、渡辺拓馬の叱責の声を聞きながら、意識を失った藤堂澄人を見つめて黙っていた。

渡辺拓馬は九条結衣の表情がおかしいのに気づき、言葉を途切れさせた。怒るべきか笑うべきか分からない様子で、「また何か刺激的なことを言ったのか?」

九条結衣は彼を見上げ、感情のない声で答えた。「何も」

渡辺拓馬は二人が病室で何を話していたのか分からなかったし、結衣も藤堂澄人との個人的な事をあまり話さなかった。それ以上は聞かずに、ただこう言った。

「俺はあいつのことが気に入らないけど、医者として責任を持って言っておく。彼の胃の病気はかなり深刻だ。長期の不規則な食生活が原因だ。今日の急性胃出血は制御できたものの、まだ危険な状態だ。刺激は避けた方がいい」

渡辺拓馬の言葉を聞いて、九条結衣は以前田中行が彼女に話したことを思い出した。

彼女がいなかったあの四年間、彼は狂ったように彼女を探し、その後全てのエネルギーを仕事に注ぎ込み、長期の不規則な食生活が原因で、この重度の慢性胃炎を引き起こしたのだ。