彼女の言葉を聞いただけで、藤堂澄人の看病を続けるつもりだと分かった。目の奥に一瞬の寂しさが閃いたが、表情は飄々としていて、こう言った:
「じゃあ、俺は行くよ。でも、もし本当に生きる気がないなら、放っておいてやれよ」
九条結衣は彼の言葉に思わず笑みがこぼれ、先ほどの憂鬱な気分が少し晴れた。
「分かってるわ。死にたいって言うなら、この手で送り出してあげる」
「それもいいな。ライバルが一人減るってことだし」
渡辺拓馬は同意するように頷いたが、九条結衣から警告の白眼を食らい、降参するように手を上げて病室を出て行った。結衣の見えないところで、彼の口元の笑みは静かに消えていった。
これほど長い間待ち続けても、あのデカい豚足の藤堂澄人には敵わないのか。
出会いが遅すぎたせいなのか?
もし藤堂澄人より先に結衣と出会っていたら、結果は違っていたのだろうか。
そう考えながら、渡辺拓馬は自嘲気味に笑って、当直室へ戻っていった。
渡辺拓馬を見送った後、九条結衣は一人病室に立ち、蒼白い顔をした藤堂澄人を見つめながら、複雑な思いに駆られた。
こんな藤堂澄人は見たことがなかった。あの鋭い威圧感は消え失せ、脆く壊れそうで、指一本触れるだけで粉々に砕けてしまいそうだった。
こんな姿の藤堂澄人を見ることになるとは、想像もしていなかった。
30分前、彼が彼女の手を握り、もう一度チャンスをくれと懇願する目で見つめてきた時のことを思い出すと、今でも胸が痛くなる。
チャンスを与えることなんて、簡単なはずなのに。でも、もう一度藤堂澄人に賭けてみる勇気は、もう残っていなかった。
でも、藤堂澄人のことを本当に忘れられないのも事実だった。一目見た瞬間から結婚を誓った人を、そう簡単に忘れられるはずがない。
彼女はため息をつき、前に進んで布団を掛け直し、すべての明かりを消して、小さな夜灯だけを残した。
薄暗い光の中、藤堂澄人の整った顔立ちを見ていると、彼の周りの雰囲気も柔らかくなったように感じられた。
それは自然と、初めて会った時のことを思い出させた。プールサイドに座る彼女の隣に座り、温かな雰囲気を纏いながら、優しく涙を拭いてくれた彼。
一つ一つの仕草が、彼女を溺れさせそうなほど優しかった。