369.奥様の疑惑

その様子を見て、藤堂澄人は眉をひそめ、目に苛立ちの色を浮かべた。「他に何か用か?」

「それが……」

松本裕司は頭を抱えた。この件を話せば、また問題になりそうだった。

社長は奥様の件で既にこんな状態なのに、さらなるショックに耐えられるだろうか?

しかし、言わないのは自分の責任放棄になる。

「社長、会社の入札価格の件ですが、会社の幹部以外で知っているのは……奥様だけなんです……」

そう言いながら、恐る恐る藤堂澄人の様子を窺うと、鋭い視線と目が合い、慌てて頭を下げた。

社長の目つきが怖すぎる~

数秒後、責任感のある秘書として、松本裕司は覚悟を決めて口を開いた。「社長、こんなことを言うべきではないのは分かっていますが……」

「言うべきでないと分かっているなら、黙って飲み込め。」

松本裕司:「……」

社長は今でも体が弱っていて、顔色も真っ青なのに……その威圧感は本当に怖い!!!

鼻先を擦りながら、すぐに空気を読んで言った。「では社長、ゆっくりお休みください。私は会社に戻って仕事を処理してきます。」

言い終わって、社長の不機嫌な表情を見た松本裕司は、思わず自分の頬を叩いた。

余計なことを!余計なことを!

ドアを開けて出ようとした時、ドアの外に立っている人を見て、表情が変わり、震える声で呼びかけた。「お、奥様。」

ベッドに座っていた藤堂澄人は「奥様」という言葉を聞いて、驚いてベッドから振り返ってドアの方を見ると、九条結衣が朝食を手に持って、無表情で立っていた。

藤堂澄人は微かに眉をひそめ、先ほどの会話を結衣が聞いていたかどうか気になった。

その瞬間、藤堂澄人は急に緊張し、緊張すると胃が痛み始め、九条結衣の顔を見つめながら、彼女が何を考えているのか分からなかった。

「松本秘書、おはようございます。」

九条結衣が挨拶をし、彼の横を通って病室に入り、手に持っていた朝食を部屋に置かれた円形の大理石のテーブルの上に置いた。

「お、奥様、おはようございます。」

松本裕司は手を上げ、思わず自分の額に触れると、冷や汗が流れているのを感じた。

藤堂澄人の冷たく鋭い警告の視線を受け、彼は首を縮め、再び郵便室に左遷されるのを避けるため、非常に賢明に退出を申し出た。

「社長、奥様、私はこれで失礼します。」