藤堂澄人は彼女の声の冷たさを感じ取り、心が沈んだ。九条結衣を怒らせてしまうのではないかと恐れ、不本意ながらも、ゆっくりと手を離した。
伏せた瞳に落胆の色が浮かび、九条結衣が外へ向かって歩き出すのを見て、不安げに彼女を呼び止めた。「どこへ行くの?」
昨夜、彼女が去ろうとした時の、表面上は平静だが決然とした眼差しを思い出し、心が突然痛んだ。
しかし彼にはわかっていた。しつこく追いかけ続けても、九条結衣の嫌悪感を増すだけで、さらに遠ざけてしまうことになる。かといって、このまま手放すことなど、なおさらできなかった。
すでにあれほどの年月を失ってしまった。彼女と一生を擦れ違ったままでいいはずがない。
いつも断固とした決断を下してきた藤堂澄人が、初めて自分がどうすべきかわからなくなった。