これも九条結衣が藤堂澄人に朝食を買いに行くと言った理由で、藤堂澄人は彼女が離れる口実だと思っていたのだ。
しかし今、彼は九条結衣が外から買ってきた朝食を目の当たりにして、抑えきれない喜びを感じ、唇の端が思わず上がってしまい、押さえることもできなかった。
「わざわざ朝食を買いに行ってくれたのか。病院にもあるのに」
そう言いながらも、その照れくさそうな笑顔が特に目立っていた。
九条結衣は彼を一瞥したが、何も答えなかった。
わざわざ外に買いに行ったのは、彼が好き嫌いが激しく、病院の食事が口に合わないからではないか。
結婚後のある年、彼も急性胃炎で入院した時、栄養士が特別に作った栄養食を、一口も食べようとしなかったことを覚えている。
誰が説得しても無駄だった。
最後は彼女が喉が渇くほど説得して、やっと渋々一杯食べただけで、その後も顔をしかめながら、二度とこんな豚の餌は食べたくないと言い放った。
藤堂澄人がスプーンで粥を一口すくって口に運ぶのを見ていると、次の瞬間眉をひそめ、露骨な嫌悪感を顔に表した。
しかしすぐにその嫌悪の表情は消え、まるで先ほどの光景が錯覚だったかのようだった。
それでも九条結衣は、藤堂澄人が食事を取る様子が苦しそうなのを見て取った。その姿は、かつて栄養食を食べていた時と全く同じだった。
これだけ長い間この人を愛してきたから、彼の性格はよく分かっている。
表面は高嶺の花のように近寄りがたく見えても、好き嫌いは三歳児のようで、誰も手に負えない。
だから今、明らかに味を嫌がりながらも一口一口食べている姿を見て、九条結衣は少し意外に思った。
ようやく目の前の粥を食べ終えると、藤堂澄人はまるで刑の執行を終えた囚人のように、大きくため息をついた。
まずい!
心の中でそう思いながらも、表情には嫌悪感を出さず、九条結衣を見て、取り入るように笑って言った。「美味しかったよ。ありがとう、結衣」
九条結衣:「……」
彼女は返事をせず、テーブルの食器を片付けようと手を伸ばしながら、先ほどドアの外で松本裕司の話を聞いたことを思い出し、何気なく言った。「さっきの松本裕司の話、聞こえたわ」
「私は疑っていない!」
九条結衣の言葉が終わるや否や、藤堂澄人はすぐに否定の言葉を発した。九条結衣に誤解されることを恐れているようだった。