370.彼女は全部聞いていた

これも九条結衣が藤堂澄人に朝食を買いに行くと言った理由で、藤堂澄人は彼女が離れる口実だと思っていたのだ。

しかし今、彼は九条結衣が外から買ってきた朝食を目の当たりにして、抑えきれない喜びを感じ、唇の端が思わず上がってしまい、押さえることもできなかった。

「わざわざ朝食を買いに行ってくれたのか。病院にもあるのに」

そう言いながらも、その照れくさそうな笑顔が特に目立っていた。

九条結衣は彼を一瞥したが、何も答えなかった。

わざわざ外に買いに行ったのは、彼が好き嫌いが激しく、病院の食事が口に合わないからではないか。

結婚後のある年、彼も急性胃炎で入院した時、栄養士が特別に作った栄養食を、一口も食べようとしなかったことを覚えている。

誰が説得しても無駄だった。

最後は彼女が喉が渇くほど説得して、やっと渋々一杯食べただけで、その後も顔をしかめながら、二度とこんな豚の餌は食べたくないと言い放った。