目の奥に明らかな打算が見え隠れし、腹に悪巧みを抱えた小狐のようだった。
藤堂澄人の唇の端が、それに合わせて緩やかに上がり、目元には淡い笑みが宿っていた。
電話の向こうの九条政は明らかに不機嫌で、九条結衣に対する口調も冷たく病んでいた。
「じゃあ、場所を決めましょう」
そう言って、九条結衣は電話を切り、微笑みを浮かべて彼女を見つめる藤堂澄人に視線を向けると、表情が一瞬凍りついた。
藤堂澄人の眼差しは柔らかすぎて、まるで初めて会った時の彼の姿を見ているかのようで、彼女の心は突然震えた。
気を取り直して、彼女は言った。「用事があって出かけないといけないので、誰か看病を頼んでください」
藤堂家には使用人が不足していないので、藤堂澄人の看病は問題ないはずだった。今の藤堂澄人の顔色を見ると、明らかに良くなっているので、彼女はもうここにいる必要はないと考えた。
藤堂澄人はすぐには答えず、ただ微笑みながら彼女を見つめていた。しばらくして、ようやく「わかった」と一言だけ言った。
九条結衣は彼が何を考えているのかわからなかった。彼の顔から視線を外すと、病室のドアを開けて出て行った。
背後でドアが閉まる音を聞きながら、藤堂澄人の唇の端に浮かんでいた笑みが、ゆっくりと消えていった。
彼女は明言しなかったが、彼にはわかっていた。彼女の「誰か看病を頼んでください」という言葉は、今回出て行ったら、もう戻ってこないという意味だと。
彼は彼女を引き止めたかったが、その勇気が出なかった。もし昨日また吐血して気を失わなければ、彼女はもっと早く去っていただろう。
彼にはわかっていた。彼女を引き止めることはできないと。
四年前と同じように、彼女が一度心を決めれば、彼を地獄に突き落とすことができるのだ。
九条結衣が外科病棟を出ると、黒い伸長リンカーンが、彼女の前でゆっくりと停車した。
この車は九条結衣にとって見慣れたものだった。藤堂お婆様の専用車で、以前藤堂家にいた頃は、藤堂澄人のベントレーより何百倍も多くこのリンカーンに乗っていたのだ。
九条結衣はその場に立ち止まり、杖をついて車から降りてくる藤堂お婆様を見つめた。お婆様は彼女を見つけると、目を輝かせ「結衣」と呼びかけた。