372.知能に影響が出るのが怖い

黒崎弁護士は九条結衣の母親である小林静香の専属弁護士で、商事法務関連の書類などは全て黒崎弁護士を通して処理されていた。

「九条さん、お気遣いなく」

九条結衣が黒崎弁護士と共に中へ入ろうとした時、もう一台の黒い長距離リムジンがカフェの前に停車した。

車から降りてきたのは、九条政と彼の代理人弁護士の他に、なんと木村富子母娘だった。

彼女を見た時、三人とも顔色が悪く、彼女を見る目つきは、まるで彼女を食い殺したいかのように歯ぎしりしていた。

彼らの態度に、九条結衣は全く動じる様子もなく、冷笑を浮かべながら先にカフェの中へ入っていった。彼女から自然と放たれるオーラは、九条政たちを圧倒するほどだった。

彼女の後ろを付いていく九条政たち三人は、九条結衣に気迫で負けていることを感じ、心中では非常に不満だった。

しかし今日以降、九条結衣は九条グループから追い出されることを思うと、その不満の炎も収まっていった。

「九条さん、株式譲渡契約書の下書きは既に完成しております。ご確認ください」

黒崎弁護士がアタッシェケースから書類を九条結衣に手渡したが、彼女はそれを見もせずに九条政の前に投げ出し、「確認してください」と言った。

九条政は彼女を鋭く睨みつけてから、急いでその契約書を取り上げて自分の弁護士に渡し、「よく確認しろ」と言った。

この生意気な娘は母親と同じで腹黒い。今回こんなに簡単に持ち株を全て譲渡すると言い出したことに、どうしても不安を感じずにはいられなかった。

弁護士はすぐに契約書に目を通し、九条政に「社長、ご心配なく。この契約書に問題はありません」と告げた。

九条結衣は目の前の人々を気にも留めず、運ばれてきたコーヒーを一口飲み、何気ない表情で言った。

「問題ないなら、署名しましょう」

「ふん!そんなにお金が必要なの?何を急いでるの?」

傍らの木村富子は九条結衣を皮肉な目で見つめた。九条グループの株式35%といえば、数千億円の価値がある。政さんがこの金額を用意するため、彼女も自分の持ち物を全て売り払った。

しかし、この35%の株式さえ手に入れれば、政さんは九条グループで独裁者になれる。そうすれば、彼女たち母娘も九条グループで好き放題できるようになる。