お爺さんは気軽に手を振り、九条結衣の手の甲を軽く叩いて、「結衣、安心しなさい。お爺さんがいる限り、あなたが不当な扱いを受けることはない。私こそが九条家の家長なのだ。あの二人は、たとえお前の父親が連れてきたとしても、九条家の人間にはなれない」と言った。
今は自分の母親が九条政と離婚したので、結衣は木村靖子母娘が家に入ることを気にしていなかったが、お爺さんがこれほど彼女を守ってくれることに、心の中で嬉しく思った。
「分かりました、お爺さん。ありがとうございます」
祖孫二人が少し話をしていると、部屋のドアがノックされ、山本叔父さんがドアを開けて入ってきて、お爺さんに「ご主人様、藤堂お婆様がお見舞いにいらっしゃいました」と告げた。
続いて、白髪まじりながらも元気そうな藤堂お婆様が笑顔で入ってきて、「九条、具合はどうかね」と声をかけた。
結衣を見つけると、お婆様は一層喜んで、「結衣もいたのね。さっき澄人から昨夜あなたが一晩中看病してくれたと聞いたわ。本当にご苦労様」と言った。
お婆様の言葉を聞いて、九条爺さんも目を輝かせ、驚いたように結衣を見つめた。結衣はそれを見て少し居心地が悪くなった。
「えっと...昨夜は松本秘書が家の用事があって、私がちょうどいたので...大したことはしていません。点滴を見ているだけで...」
彼女は意識的に説明しようとしたが、説明すればするほど、何か違和感を覚えた。
特に、お爺さんとお婆様の「私たちには分かっているわよ」という表情を見ると、とても居心地が悪くなった。
「あの...お二人でゆっくりお話しください。私は少し出てきます」
彼女がドアを開けて出て行く時、二人の老人が彼女を見つめていた視線を思い出し、まだ体中が落ち着かない感じがした。
藤堂澄人の病室は九条爺さんの病室から遠くなく、VIP病棟の一階には二部屋しかなく、廊下の両側にそれぞれあった。
結衣は廊下を歩きながら、無意識に藤堂澄人の病室の方向を見つめ、何度も迷った末、結局そちらには行かなかった。
視線を戻そうとした時、藤堂澄人の病室のドアが開き、彼が少し苛立った様子で出てきた。
しかし彼女を見つけた瞬間、一瞬固まり、すぐに顔に喜びの色が浮かび、早足で彼女の方へ歩いてきて、「結衣、戻ってきたんだね」と言った。