傍らにいた木村富子母娘は九条政の言葉を聞いて、お互いに目を合わせ、先ほどまでの九条結衣に軽蔑された怒りも、この時には幾分か消えていた。
木村靖子は九条政の側に寄り、彼の腕に手を回し、怒りで激しく上下する背中を優しく撫でながら、静かに諭すように言った:
「お父様、もういいじゃないですか。お体を壊してしまいますよ。今や九条グループの株式の55パーセントはお父様のものなんですから、これからは九条グループのことは全てお父様の思い通りです。取締役会の連中だって、お父様の決定を止めることはできませんよ。そう考えれば、少しは気が晴れませんか?」
九条政は木村靖子の優しい声を聞いて、怒りが確かに収まってきた。靖子の手の甲を優しく叩きながら言った:
「やっぱり靖子は良い子だ。お父さんが可愛がるのも当然だな」
九条政は慈愛に満ちた表情で木村家の母娘を見つめ、言った:「この数日の仕事が片付いたら、お前たちにも株式を分けてやろう。九条グループでの発言権を持たせてやるからな」
この言葉を聞いて、木村家の母娘の目が急に輝いた。彼女たちがこれまで我慢してきたのは、まさに九条グループで一席を得るためではなかったか?
今回、九条結衣の持つ株式を買い取るために手持ちの金を全て使い果たしたが、九条グループの株式を手に入れれば、現在の九条グループの時価を考えれば、それは尽きることのない金脈となるのではないか?
さらに重要なことは、これからは世間に出ても、愛人と私生児ではなく、九条家の正当な奥様と令嬢として通用するということだ。
そう考えると、木村家の母娘のこの数日間、九条結衣によって引き起こされた鬱屈した気持ちも、ようやく晴れてきた。
株式を九条政に譲渡した後、九条結衣と九条グループとの関係は完全に切れることになる。これからは、彼女は一歩一歩自分の計画を実行することができる。
彼女は仇を必ず返す性格だ。どうして九条政にこんな大きな得をさせておけようか。
しばらくは好きにさせておいて、最後には天国から地獄に落ちる味を味わわせてやる。
「九条さん、他に用件がなければ、私は先に失礼させていただきます」
「はい、黒崎弁護士、今日はお手数をおかけしました」
「いいえ、当然の務めです」