今はA市にいて、おじいちゃんは彼女にとって唯一の心配事で、彼を一人病院に置いて、自分だけ行ってしまうわけにはいかなかった。
九条政のような厚かましい人は、おじいちゃんを怒らせて病気にさせるようなことをしでかすかもしれない。
「ああ、そうか...」
藤堂澄人の声には軽い失望が滲み、一瞬何を言えばいいのか分からなくなった。
二人の間は沈黙のまま立ち尽くし、誰も口を開かず、その場の空気は静まり返って少し気まずい雰囲気になった。
しばらくして、九条結衣が先に口を開いた。「休んでください」
「どこへ行くんだ?」
彼は九条結衣が立ち去ろうとするのを見て、本能的に彼女の手を掴んだ。こんな風に執着するべきではないと分かっていても、自分を抑えることができなかった。
九条結衣への誤解に気付く前から、彼女を手放すことができなくなっていた。そして、自分がどれほど許されない罪を犯したかを知った後は、手放せないという確信に加えて、限りない後悔と自責の念に苛まれ、ただ彼女に償いたいという思いだけになっていた。