手錠を持った警察官は彼女の言葉を遮り、木村靖子の手に手錠をかけた。冷たい金属の感触に靖子の体が震え、振り向いて木村富子に助けを求めるように見つめた。
「お母さん、助けて、お母さん……」
「靖子、一体どうしたの?」
木村富子も慌てた。先ほどの九条家の門前での娘の様子を思い出し、心が沈んだ。
「話は警察署でしましょう。時間を無駄にしないで」
警察官は母娘に無駄話をする機会を与えず、すぐに靖子をパトカーに乗せた。
木村富子は顔面蒼白で立ち尽くし、靖子が連れて行かれるのを見つめながら、突然力が抜けて地面に崩れ落ちた。
「ど...どうしてこんなことに……」
企業秘密の漏洩は、刑務所行きになる重大な罪だ。
靖子はまだ26歳で、これからの人生があるのに。やっと九条グループに入れるチャンスを掴んだところなのに、刑務所なんて。
「そうだ、政さんに電話を…」
木村富子は慌ててバッグから携帯を取り出し、九条政に電話をかけた。
九条結衣は木村家の母娘がどんな大きな問題を抱えているのか知らず、用事を済ませてから再び階下に降りた。
「田中さん」
「お嬢様、何かご用でしょうか?」
「後で祖父の見舞いに病院へ行くので、スープを作っておいてください」
「かしこまりました、お嬢様」
田中さんに指示を出した後、九条結衣はC市の母親に電話をかけ、初の様子を尋ねた。
小林由香里の藤堂澄人に対する想いに気付いてからというもの、最初は気にしていなかったが、その後の彼女の態度に警戒心を抱くようになった。
小林由香里は自分が結衣を見る目に怨みが込められていることに気付いていないかもしれないが、結衣にはそれが見て取れた。
表立って言わなかったのは、小林由香里が初の世話を本当によくしてくれていたからで、彼女の立場を悪くしたくなかったからだ。
しかし、それでも初を危険にさらすわけにはいかない。世の中には狂った人間が多すぎる。特に小林由香里が何度も彼女に対して強い敵意を示した状況では、もう初を彼女に任せっきりにはできなかった。
そのため、C市を離れる前に、初を母親に預けることにした。そうすることで、やっとA市での私用に専念できた。
「坊や、おばあちゃんの家では言うことを聞いて、いたずらしちゃダメよ、わかった?」
「うん、わかった」