手錠を持った警察官は彼女の言葉を遮り、木村靖子の手に手錠をかけた。冷たい金属の感触に靖子の体が震え、振り向いて木村富子に助けを求めるように見つめた。
「お母さん、助けて、お母さん……」
「靖子、一体どうしたの?」
木村富子も慌てた。先ほどの九条家の門前での娘の様子を思い出し、心が沈んだ。
「話は警察署でしましょう。時間を無駄にしないで」
警察官は母娘に無駄話をする機会を与えず、すぐに靖子をパトカーに乗せた。
木村富子は顔面蒼白で立ち尽くし、靖子が連れて行かれるのを見つめながら、突然力が抜けて地面に崩れ落ちた。
「ど...どうしてこんなことに……」
企業秘密の漏洩は、刑務所行きになる重大な罪だ。
靖子はまだ26歳で、これからの人生があるのに。やっと九条グループに入れるチャンスを掴んだところなのに、刑務所なんて。