藤堂澄人は九条結衣がまた来るとは思ってもみなかった。会社の入札価格が漏洩したため、そのプロジェクトの案件をやり直さなければならなくなったのだ。
彼の立場にある者が暇であるはずがない。部下に優秀な人材を抱えていても、長時間休むことなどできないのだ。
そのことを知っていても、九条結衣は病床で仕事をしている彼を見て、顔に不快感を浮かべずにはいられなかった。
藤堂澄人は目の前の九条結衣を見て、喜びと期待を隠しきれない表情を浮かべた。
九条結衣が手に持っていた魔法瓶をテーブルの上に置くと、淡々とした様子で言った。「さっきおじいちゃんに煮出したんだけど、おじいちゃんが飲みきれないから、あなたに持ってきてって」
九条結衣の言葉を聞いて、藤堂澄人の口元の笑みが一瞬凍りついたが、すぐに隠された。