今回の木村靖子の行為で数億円の損失を被ったとはいえ、藤堂グループほどの大企業にとってはたいした額ではなかった。
彼女が驚いたのは、藤堂澄人が木村靖子に対してかなり厳しい対応をしたことで、それが先ほどの驚きの表情の理由だった。
8年前の出来事の真相がどうであれ、少なくとも現時点では、木村靖子は兄妹の命の恩人なのだ。
その点、藤堂瞳は恩返しに熱心で、兄嫂を引き離そうと頻繁に画策し、木村靖子のために席を空けようとしていた。
九条結衣は心の中で、皮肉な思いが過ぎった。
藤堂澄人が不機嫌そうな顔をしているのを見て、少し躊躇した後、説明を始めた:
「違うの、ただ不思議に思っただけ。」
藤堂澄人は九条結衣が皮肉を言うか、あるいは完全に無視すると思っていたが、まさか説明してくれるとは思っていなかった。