396.死んでほしいけど、死ぬの?

「一体どうすれば、靖子を許してくれるの?」

「なぜ彼女を許さなければならない?」

藤堂澄人は冷笑いを浮かべながら、眉を上げて問い返した。その漆黒の瞳から放たれる威圧感に、九条政は思わず身震いした。

「藤、藤堂社長、どう考えても、靖子はあの時あなたを救ったんです。彼女はあなたを救うために、命を落としかけたんですよ。あなたは...こんなにも恩を仇で返すべきではありません。」

木村富子は震える声で話し始めた。藤堂澄人の放つ威圧感に怯えながらも、娘のことを放っておくわけにはいかなかった。

彼女は藤堂澄人が人に恩を受けることを好まない人だと知っていた。特に命の恩人となれば、これを使って藤堂澄人を動かすには絶好の機会だと思った。

しかし、彼女の言葉が出た途端、藤堂澄人は軽蔑的な冷笑を漏らした。

「あなたたち母娘は藤堂家からどれだけのものを得たか、一つ一つ数え上げる必要がありますか?」

彼は目を細め、その瞳には危険な光が宿っていた。「確かに私は人に借りを作るのは好まない。しかし、恩を売りつけられるのはもっと嫌いだ。それを持ち出して私と取引しようというのか。ふん!いいだろう。」

藤堂澄人が「いいだろう」と言うのを聞いて、九条政と木村富子の目が一瞬輝いた。チャンスが来たと思ったのだ。

しかし次の瞬間、藤堂澄人の言葉は二人の期待を完全に打ち砕いた。

「私は人に借りを作るのは嫌いだが、人に付け込まれるのも嫌いだ。木村靖子を許してほしいなら、この数年間で藤堂家から得たものを一つ一つ返してもらおう。そうすれば...あの時の恩は帳消しにしよう。」

もちろん、もしこの命の恩に何か裏があったと分かれば、必ずこの母娘に倍返しさせてやるつもりだった。

木村富子は藤堂澄人の言葉に声も出せなくなった。

これまでの年月で、母娘は藤堂グループから少なくとも数十億円は得ていた。さらに外部での投資も、藤堂グループの名を借りて相当な利益を上げていた。そうでなければ、これほど贅沢な暮らしはできなかったはずだ。

九条政の持株を買い取る金もなかったはずだ。

今、藤堂家から得たものを全て返せと言われても、そんな金額はどこにもない!

そして、全て返してしまえば、彼女たちは本当に何も残らない。