これは物思いにふける大物だな。
九条爺さんの退院手続きが済んで、九条結衣が爺さんを病室から連れ出すと、別の病室から出てきた藤堂澄人の姿が目に入った。
九条結衣は一瞬驚いたような表情を見せたが、藤堂澄人は既に彼女の方へ歩み寄っていた。
藤堂澄人は爺さんの前に立ち、敬意を込めて言った。「おじいさん、退院されるんですか?」
「そうだよ、病院がどんなに快適でも家には及ばないからね」
爺さんはにこやかに答えながら、そっと藤堂澄人の上の空な表情を観察していた。
このやろう、自分と話してはいるものの、目は妻、いや元妻以外見ていやしない。
この不良野郎は以前はちょっとやんちゃだったが、最近の様子は見所があるな。
孫娘にもう一度チャンスを与えてほしいと思い、こう切り出した。「結衣、おばさんと少し内緒話があるから、ついて来ないでくれ」