411.強く改めなかった

慣れてしまったわね……

藤堂澄人の表情が一層暗くなり、渡辺拓馬を八つ裂きにしたい衝動が暴れ馬のように心の中を駆け巡った。

薄い唇を軽く噛みしめ、むっつりと言った。「君は俺にはそんなに親しげに呼びかけないよな」

低い声には、まるで小姑のような不機嫌な不満が混ざっていた。

九条結衣は一瞬驚いて、思わず言った。「あなたと彼とは違うでしょう?」

彼女の言葉に特別な意味はなく、ただ渡辺拓馬とは親友で、藤堂澄人との関係は複雑で説明しづらいということを言いたかっただけだった。

しかし、彼女のその言葉は、藤堂澄人の耳には別の意味として響いた。

彼女の心の中で、彼は親しい存在ではなく、むしろ…他人以下なのだと。

そう考えると、藤堂澄人の心がかすかに痛み、瞳の光も暗くなり、唇を噛みしめたまま黙り込んでしまった。

九条結衣は彼が突然黙り込んだのを見て、不思議に思いながらも、彼が何を考えているのか気にはしなかった。

目を伏せて二秒ほど考えてから、「おじいちゃんが待ってるの。一緒に帰らないと」と言った。

そう言って歩き出そうとした時、手首を藤堂澄人に優しく掴まれた。

彼の力は強くなかったが、今の九条結衣にとっては、なぜか千斤の重みのように感じられた。

「じゃあ…すぐにC市に戻るのか?」

藤堂澄人は乾いた唇を動かし、かすれた声で尋ねた。

九条結衣が躊躇なく頷き、少しの未練も見せずに「うん、こっちで時間を無駄にしすぎたから、もう遅れは取れない」と答えるのを見た。

彼女は藤堂澄人に掴まれた手首を見下ろし、軽く振り払って手を解き、おじいちゃんの方へ歩き出した。

ちょうどその時、松本裕司が藤堂澄人の退院手続きを済ませて戻ってきた。九条結衣を見かけると、すぐに身構えるような態度を取り、頭を下げて恭しく「奥様」と呼びかけた。

彼は九条結衣の眉がかすかに寄るのを見て、心臓が一瞬ドキッとしたが、強く持って呼び方を変えなかった。

奥様の怒りの嵐をどう受け止めようかと考えていた時、九条結衣は何も言わずに立ち去った。

松本裕司はほっと息をつき、藤堂澄人の元へ急いで歩み寄った。

自分のボスが寂しげに立ち尽くし、まるで妻に完全に見捨てられたかのように、目を伏せて一言も発さない様子を見た。少し青白い顔色と相まって、一見すると本当に可哀想に見えた。