渡辺拓馬は、この藤堂澄人とあまり話さない方がいいと思った。話せば話すほど、彼に自慢される機会を与えることになるからだ。
そこで、藤堂澄人に「厚かましい」という視線を送った後、ドアを開けて出て行った。
渡辺拓馬の表情が曇るのを見て、藤堂澄人は上機嫌で眉を上げ、ベッドから降りると、テーブルの上のパソコンを開いて仕事の準備を始めた。そして、妻が愛情たっぷりのスープを持ってくるのを待つことにした。
しかし、待っているうちに、九条爺さんの退院の知らせが届いた。
藤堂澄人:「……」
お年寄りの健康を願うのは当然だが、元妻が九条爺さんが退院したらC市に戻ると言っていたことを思い出すと、気分が晴れなかった。
松本裕司が来たとき、上司のこの不機嫌そうな様子を見て、心臓が凍りついた。