九条二郎

幼い頃から、彼女は猫を飼いたがっていた。その時、おじいさんは退職前で政務が忙しく、母も大きな会社を経営していた。彼女は母に頼むことはせず、期待を胸に九条政を訪ねた。

その時、九条政は何と言ったのか?

自分の面倒も見られないのに、猫を飼うつもり?

そしてきっぱりと断られた。

その後、彼女は学業に忙しく、藤堂澄人の足跡を追うことに夢中になり、猫を飼う考えは消えていった。

このふわふわした小さな生き物を抱きしめて美雨と鳴くのを見ながら、九条結衣の表情も柔らかくなり、笑顔が彼女の顔にますます明るく広がっていった。

少し離れたところにいた藤堂澄人は、目の前でこんなにも素直で無邪気に笑う九条結衣を見て、表情に戸惑いの色が浮かんだ。

よく考えてみると、彼は九条結衣がこんなふうに笑うのを見たことがなかった。彼に対しては、いつも作り笑いばかりで、時にはその作り笑いすら見せる気がないようだった。