428.寒いなら、抱きしめてあげる

そう思いながら、彼は可哀想そうな表情を浮かべ、九条結衣を抱こうとしたが、彼女に避けられてしまった。

「結衣……」

彼は更に彼女に近づき、今度は無理に抱きしめようとはせず、ただ哀れっぽく彼女の手首を掴んで言った：

「ただ君にもう少し側にいて欲しかっただけで、騙すつもりは全然なかったんだ。」

九条結衣は彼を無視し、冷ややかな視線を投げかけただけだった。

藤堂澄人は彼女があまり怒っていないのを見て、少し安心した。「ほら、私の頭の傷も本物だよ。君が直接縫ってくれたじゃないか。嘘はついていないだろう？」

彼は彼女の手を握り、自分の額に導いた。「触ってみて、傷はまだ完全に治っていないよ。」

九条結衣は当時、藤堂澄人の傷を縫った時のことを思い出した。あの血を噴き出す恐ろしい傷を見て、心が少し和らいだ。

しかし口調は依然として硬く言った：「あなたがわざとあの一撃を受けたのかもしれないわ。若い頃は腕が立ったって覚えてるわ。」

藤堂澄人は妻の「若い頃は」という胸を刺すような言葉を見事にスルーし、頷いて認めた：

「わざとじゃないんだ。ただ……ただ君が私の名前を呼んでくれた時、嬉しすぎて反応が遅くなっただけなんだ。」

「妻を追いかける地獄」という真理を深く理解してからは、一度も捨てた面子を取り戻そうとはしなかった。この言葉を認めるのに躊躇いは全くなかった。

九条結衣は彼がこんなにあっさりと認めるとは思わず、目尻が思わずピクリと動いた。

「わかったわ。」

九条結衣は表情は相変わらず冷たいまま言った。「外は寒いから、中に入りましょう。」

「寒いなら、抱きしめていようか。」

やっと妻と二人きりで親密になれる機会を掴んだのだから、そう簡単には中に入らせるわけにはいかなかった。

九条結衣は彼に「頭がおかしいの？」という目つきを向けた。野宿するわけでもないのに、ちゃんとした暖房のある家の中にいればいいのに、外で寒い風に当たりたがるなんて。

「あなたが外にいたいなら、そうすればいいわ。私は頭がおかしくないから、ここで寒い風に当たったりしないわ。」

そう言って、彼女は藤堂澄人に冷たい視線を送り、彼を避けて家の中へと向かった。

藤堂澄人はその場に立ち尽くし、少し落胆して鼻先を撫でた後、結局彼女の後を追って中に入った。