429.九条政は諦めない子供

九条結衣がアメリカから帰国して以来、九条政は自分が彼女に押さえつけられて息もできないような状態になっていることに徐々に気付き始めた。彼が何をしようとしても、九条結衣に簡単に抑え込まれてしまうのだった。

だから、今この瞬間、九条結衣を見ても、彼女のことを歯ぎしりするほど憎んでいても、表情には出すことができなかった。

九条爺さんのその皮肉な一言を聞いて、彼は気まずそうな表情を浮かべ、「お父さん、あの日のことは私が悪かったです。だから謝りに来たんです」と言った。

「ふん、謝り終わったなら出て行け」

九条爺さんは九条政のような人間のことをよく知っていた。何か頼み事がなければ、こんな風に頭を下げて謝りに来るはずがない。

結局のところ、あの私生児のために頼みに来ただけだろう。

案の定、九条政は九条爺さんにそう言われ、口をもぐもぐさせ、何か言いたそうな様子で、すぐには帰る気配を見せなかった。

「お父さん、先にお食事をどうぞ。食事が終わってからゆっくりお話しさせてください」

そう言いながら、さりげなく九条結衣と藤堂澄人の顔を見やり、その後リビングに座って待つことにした。

「食事にしよう」

九条爺さんも九条政には相手にせず、ただ食事を促した。

九条爺さんだけでなく、九条結衣も九条政がこんなに低姿勢で爺さんを訪ねてきた理由がわかっていた。唇の端を軽蔑的に歪めた。

まだ諦めていないようだった。

九条政の木村靖子に対する父親としての振る舞いは、確かに十分なものだった。

しかし明らかに、九条政の今回の訪問は無駄足となるだろう。

食事が終わると、九条愛は九条政を見たくなかったので、箸を置くとすぐに二階へ上がってしまった。九条結衣は爺さんを九条政と二人きりにするのが心配で、食事が終わっても爺さんの側を離れなかった。

そして藤堂澄人は、妻が帰れとは言わないので、できれば今夜もここに泊まりたいと思っており、当然早々に帰るつもりはなかった。

そのため、九条政は九条結衣と藤堂澄人が左右から爺さんを支えて食堂から出てきた時、二人が帰る気配を見せないのを見て、表情が曇った。

食事が終われば、九条結衣と藤堂澄人は帰るだろうと思っていた。そうすれば爺さんと話をするのもそれほど気が重くならないはずだった。