幼い頃から召使いに囲まれて育った坊ちゃんが作る料理なんて、想像するのも怖いわ。
「結構です。外で食べましょう」
九条結衣は藤堂澄人の提案を即座に断り、九条初の方を向いて言った。「ねえ、外で食べようか」
「うん」
九条初は素直に返事をし、手慣れた様子で九条二郎をベビーキャリーに入れた。「弟も一緒に連れて行こう」
なぜか、藤堂澄人や九条初が九条二郎のことを弟と呼ぶたびに、九条結衣は何か違和感を覚えずにはいられなかった。
そう感じながらも、九条初の要望に反対せず、手を伸ばして九条初の手を取ろうとしたが、避けられてしまった。
「ママとパパは手をつないで。初は弟と一緒に歩くの」
九条結衣:「……」
藤堂澄人は横で、九条結衣の知らず知らずのうちに赤くなった耳を見て微笑みながら、九条初に賞賛のまなざしを向けた。
この息子、本当に察しがいい。
九条初はそう言うと、本当にベビーキャリーを持って玄関に向かい、自分で靴を履き始めた。リビングに立ち尽くす両親には一瞥もくれなかった。
藤堂澄人は目に宿る笑みを押し殺し、九条結衣の側に寄って、試すように彼女の手を取った。「行こうか」
この頃、藤堂澄人はちょっとしたことで彼女の手を取るようになっていた。時々九条結衣は意識せずにそれを自然なことと感じていたが、さっきの息子のあからさまな発言で、急に居心地が悪くなった。
素早く藤堂澄人の手から自分の手を引き抜き、急いで玄関に向かって靴を履きに行った。
藤堂澄人は笑いながら後を追い、家族三人でエレベーターホールへと向かった。
ちょうど退勤時間で、マンションの住人たちは九条結衣一家がエレベーターから出てくるのを目にした。
九条初は真ん中に立ち、背中にベビーキャリーを背負い、左右の両親の手を取って、マンションの外へと跳ねるように歩いていった。その整った顔立ちには喜びの表情が満ちていた。
経済誌によく登場する藤堂澄人の顔と、芸能界のアイドルをも凌駕する端正な容姿は、マンション内で彼を認識する人が少なくなかった。
彼が手を繋いでいる、彼とそっくりな小さな正統派イケメンを見れば、一目で藤堂澄人の息子だとわかった。
なんてこと、藤堂澄人にはもう子供がいたのか。数ヶ月前のツイッターのトレンドは本当だったんだ。
遊園地で目撃された父子は、確かに藤堂澄人と息子だったのだ。