藤堂澄人は痛くないと言おうとしたが、妻の心配そうな目を見て、すぐに頷いて眉をひそめながら言った。「うん、とても痛い」
「我慢して」
藤堂澄人:「……」
妻が優しく慰めてくれるか、「優しくするね」とか「奥さんが吹いてあげる」とか言ってくれると思っていたのに、彼女はそんな無情な二言で彼を奈落の底に突き落とした。
九条結衣は彼の驚いた表情を見て、視線を外し、口角が少し上がり、そして彼の傷の手当てを始めた。
麻酔をしていたため、九条結衣が縫合している時はあまり感覚がなかった。藤堂澄人は自分の前で半蹲みになっている女性を見つめていた。前回のホテルでの時と同じように。
しかし、似たような状況でも、心境は全く違っていた。
あの時は、結衣が完全に自分から離れていくと深く感じ、一瞬にして全てを失うような感覚に、生きる意味を失うほどの痛みを知った。
今回は、彼女は相変わらず彼に対して厳しかったが、むしろ二人の距離が近づいたように感じた。
彼女は彼に厳しいが、よそよそしくはない。これは彼にとって、大きな進歩だった。
九条結衣の縫合の動作は素早く、1、2分もしないうちに傷は縫い終わった。
続いて、ガーゼを取り出して一周一周と巻いていき、包帯を巻き終えた後、彼女が顔を上げた。「麻酔が切れたら……」
彼女は藤堂澄人の顔がこんなに近くにあるとは予想していなかった。顔を上げた瞬間、唇が藤堂澄人の顎に触れ、彼女の声は喉に詰まった。
顎に一瞬感じた柔らかな感触に、藤堂澄人の体も突然硬直し、心臓に電流が走ったかのように、全身が震えた。
目が熱く深みを帯び、九条結衣のピンク色の柔らかな唇を見つめ、無意識に喉仏が動いた。
藤堂澄人の目に宿る熱い視線と、先ほどの恥ずかしい接触に、九条結衣の顔が急に真っ赤になった。
ただし、リビングの明かりが暗すぎて、それほど明確には見えなかった。
彼女は心を落ち着かせ、少し乾いた唇を噛んで言った。「薬が切れたら少し痛くなるから、あなた……」
突然、後頭部に強い力が加わり、彼女を藤堂澄人の方へ引き寄せ、すぐさま藤堂澄人の唇が、驚きで少し開いた彼女の口に重なった。
この時の藤堂澄人は、少し興奮していたようで、心に溜まっていた感情が一瞬にして爆発しそうだった。