「うん、良くなったら退院だ」
藤堂澄人は淡々と返事をして、そのまま階段を上がった。なぜか、おばあさんは孫の背中が少し急いでいるように感じた。
部屋で、藤堂澄人はクローゼットの前に立ち、黒、白、グレーの単調な色調の服ばかりが詰まった衣装棚を見つめながら、眉をしかめた。
以前なら、まるで女のようにクローゼットの前に立って悩むなんて考えもしなかったはずだ。ましてや、冷たい妻の目を引くためにどうすればもっとかっこよく見えるかなんて考えることもなかった。
しばらくして、彼は腕時計を確認し、時間が来ていることを確認すると、仕方なく目についた服を一着選んで着替え、階下へと向かった。
「どこへ行くの?」
リビングで新聞を読んでいたおばあさんは、孫が階段を降りてくるのを見て、興味深そうに尋ねた。