431.嘘だよ

「まだ帰らないの?」

「おじいさまが将棋に誘ってくれたから、帰るわけにはいかなかったんです」

「そう、じゃあ今終わったから、もう帰っていいわ」

九条結衣は外の真っ暗な空を見て、冷たく言った。

藤堂澄人は九条結衣の冷淡な様子を見て、心の中で力なく溜息をつきながら、表面的には「遅くなったから、運転は危ないよ」と言った。

九条結衣が断る前に、彼はさらに「数分前に風邪薬を飲んだから、運転できないんだ」と付け加えた。

「山本叔父さんに送ってもらえば」

そう言って、ドアを閉めようとしたが、藤堂澄人に手で止められた。

先ほどまでの不真面目な態度を改め、暗い表情で「明日C市に戻るんだろう?少しだけ話をさせてくれないか?」

それを聞いて、九条結衣は眉をしかめた。このような藤堂澄人を断ることができないことに気づいた。しかし、毎回彼の前でこんなに簡単に妥協してしまうことで、いつか必ず再び藤堂澄人に負けてしまうことを知っていた。