九条結衣:「……」
そして、パパにすでに無視されていた初は、両親を無邪気な表情で見つめていた。
パパは勝たせてくれると言ったのに、なぜメダルはこぶたパパに持って行かれたの?
「パパ、僕たち負けちゃったの?」
初は北条春生の手にあるメダルを見つめ、同じように未練がましい表情を浮かべた。
初の声を聞いて、九条結衣は藤堂澄人の手を振り払い、息子の前に歩み寄った。膝がまだ腫れていたため、しゃがむのも痛かったので、少し体を傾けながら初に言った:
「今回は反則しちゃったの。後でママが取り返してあげるわ」
彼女は手を伸ばして初の頭を優しく撫でながら言った。
二つのメダルを続けて失った初の表情には、かすかな失望の色が浮かんでいた。藤堂澄人は彼の前に立ち、真剣な表情で言った:
「初、僕たちは男だろう。トロフィーを勝ち取るのは、ママに任せちゃいけないんだ」
彼は九条結衣の膝を指差して、「ママは今転んで、足がまだ痛いんだ。ママのことを心配しないのか?」
「心配だよ。初はママのことが一番心配だし、ママは初の一番大好きな女性なんだ」
ママへの愛を表現するため、初はすぐに九条結衣の足にしがみついた。
自分の息子とはいえ、藤堂社長は自分以外の男性が妻に愛を告白するのを聞きたくなかった。
初はダメ、二郎もダメ!
彼は何も言わずに、初の襟首をつかんで、容赦なく九条結衣から引き離した。そして低い声で息子に言った:
「お前の一番大好きな女性は将来の奥さんだ。ママはパパが愛していれば十分だ」
「いやだ!僕の一番大好きな女性はママだよ」
初は真剣な表情で、頬を少し膨らませた。
何年も後のある日、自分の嫁を見ながら今日の言葉を思い出し、顔が火照るように痛くなった。
もちろん、それは後日談で、今の初は将来そんなに素敵な日が来るとは全く知らなかった。
九条結衣は呆れた表情で目の前の親子を見つめ、雫と額に手を当て、とても恥ずかしく感じた。
彼らの近くに立っていた数組の家族は、すでに藤堂社長が場所を選ばず振りまく24Kの純金の愛の餌に目が眩んでいた。
父子の会話を聞いて、皆の表情は至って冷静だった。
「トロフィーはもういらないのか?」
藤堂澄人は顔を曇らせ、脅すように言った。
初は言葉につまり、瞬時に委縮した表情を見せた。