485.旦那様もキスとハグで励ましてほしい

その時、彼はすぐに言った。「ママ、ここで休んでいてね。僕とパパがトロフィーを獲ってくるところを見ていて、応援してね。」

九条結衣は藤堂澄人の得意げな笑顔を睨みつけ、今の自分の曲がりにくい膝のことを考えると、やはり無理はできなかった。

それに、比べてみれば、藤堂澄人の方が勝つ可能性は確実に高かった。

息子が優勝して喜んでくれれば、自分が参加するかしないかはどうでもよかった。

「わかったわ、九条初、頑張ってね!」

九条結衣は身を屈めて息子の頬にキスをし、励ましの意味を込めて大きな抱擁をした。

九条結衣の息子と自分に対する態度の違いを見て、藤堂澄人は少し妬ましく感じた。

さりげなく息子を押しのけ、彼は好意的な笑顔を浮かべながら九条結衣を見て言った。「結衣、僕もキスとハグで励ましてほしいな。」

九条結衣:「消えろ!」

藤堂澄人は息子を連れて即座に立ち去った。

九条結衣は父子の後ろ姿を見つめ、こらえようとしたが、結局こらえきれず、唇の端がかすかに上がった。

この後の種目は、ほとんどが大人と子供の体力を試すものだった。男性の体格的な先天的優位性もあり、どのグループもパパが子供と一緒に競技に出場していた。

「九条初のママ。」

九条結衣が遠くで激しい競技を繰り広げている父子に目を向けていた時、横から落ち着かない不安げな声が聞こえてきた。

九条結衣が横を向くと、九条初のクラスの担任の田中先生だった。

息子が受けた仕打ちを思い出し、九条結衣はこの田中先生に対して良い印象を持てなかった。

田中先生のこれまでの冷たい態度や、昨日の親子運動会への参加を促す電話での異常に熱心な口調から、九条結衣は田中先生が意図的に石川の両親と結託して自分を困らせようとしていることを察していた。

もし今日、自分一人で九条初を連れてきていたら、田中先生と石川の両親がどのように母子を侮辱するつもりだったか想像に難くなかった。

石川が九条初のことを非嫡出子だと言った話は、彼の両親以外にも、おそらくこの田中先生も散々言っていたのだろう。

きっと藤堂澄人もそれを察知していたからこそ、田中先生を石川の両親と一緒に金田部長の事務所に行かせた理由なのだろう。

今になって何の用事で自分を訪ねてきたのだろうか?

「田中先生、何かご用でしょうか?」