運転中の運転手は、普段クールな社長が突然「甘えた」ような声を出すのを聞いて、驚いてブレーキを踏んでしまった。
「申し訳ございません、社長」
運転手はすぐに謝罪の言葉を口にした。内心では社長に驚かされて動揺していたが、プロ意識の高さから表情を変えることなく対応した。
まさか社長がこんなにも色っぽい男性だったとは。印象では常に天山の雪蓮のように冷たい人物だと思っていたのに。
完全に見誤っていた!!!
驚きでいっぱいの心を抱えながら、社長一家を自宅まで送り届けると、運転手は解放されたかのように安堵の息をついた。
家に着いた時には、一日中興奮していた初はすでに車の中で眠っていた。
藤堂澄人が抱き上げようとしたが、九条結衣に止められた。「私が抱きます」
「妻が僕のことを心配してくれているんだね」
ふざけた声が再び結衣の耳元で響き、彼女は歯ぎしりしながら完全に無視し、初を抱いてエレベーターホールへと向かった。
藤堂澄人は彼女の後ろを歩きながら、目には常に水のように優しい愛情を湛えていた。先ほどの車内での戯れを思い出すと、その眼差しは思わずさらに柔らかくなった。
おそらく結衣自身も気づいていないだろうが、彼女の潜在意識の中では、もう彼をそれほど拒絶していないのかもしれない。
車の中で、彼女は彼の手を折ると言い、確かにある程度の力を込めていたが、彼の腕の怪我を気にかけているのが分かった。やはり彼女は彼のことを心配しているのだ。
この認識は、藤堂澄人の一日中上機嫌だった気分をさらに良くした。
初を部屋まで運んでベッドに寝かせても、彼女の手にはトロフィーが離されることはなかった。
九条結衣がトロフィーを取ろうとすると、彼女はさらに強く握りしめ、泣き出しそうになった。
最後には、九条結衣も諦めて、トロフィーを抱いたまま寝かせることにした。
息子のピンク色の頬にキスをすると、九条結衣の眼差しは、水が溢れ出そうなほど優しかった。
子供に布団をかけ、部屋の暖房の温度が十分であることを確認してから、二人は静かに部屋を出ようとした。
「パパとママ頑張れ!パパとママ頑張れ!!」
二人がドアを開けて出ようとした瞬間、初が突然声を上げ、二人は大きく驚いて同時にベッドの方を振り返った。