九条結衣は一階のリビングに座り、息子の言葉を思い出すと、胸が再び痛み始めた。
小林静香は九条結衣から九条初が幼稚園で喧嘩した理由を聞き、心が少し重くなった。
「この件について、どう思う?」
小林静香が九条結衣に尋ねると、九条結衣は一瞬呆然として、目に戸惑いの色を浮かべ、しばらくしてから「分からない」と答えた。
彼女は本当に分からなかった。今まで考えたこともないことを、今すぐ考えて決断を下すのは、彼女にとってあまりにも難しすぎた。
小林静香は娘のその様子を見て、それ以上は聞かなかった。娘は大人になったのだから、自分のことは自分で決めてほしいと思っていた。
「九条初はまだ小さいから、仕事ばかりに気を取られないで、もっと一緒に過ごしてあげて。会社は宮崎社長が見ているし、もっと忙しくなったら、お母さんも手伝えるから、無理しないでね。」
小林静香はこの言葉に別の思いも込めていたが、九条結衣には言わなかった。
九条結衣は頷いて、「分かってる、ありがとう、お母さん」と言った。
珍しく子供っぽい様子で、小林静香の肩に寄りかかり、小さな声で感謝の言葉を述べた。
「あなたはお母さんの一人っ子だもの、あなたを助けないで誰を助けるの?」
小林静香は優しく笑いながら言った。九条結衣は顔を上げて母親を見つめた。相変わらず知的で優雅で、よく手入れされた肌には、目尻のごく細かいしわ以外、歳月はあまり痕跡を残していなかった。
三十代だと言っても信じる人がいるほどだった。
九条結衣は母親を見つめながら、突然「じゃあ、新しいお父さんを見つけて、弟か妹を産んでよ」と言った。
小林静香はそれを聞くと、すぐに怒って娘の頭を軽く叩いた。「この子ったら、自分のことも上手くいってないくせに、お母さんをからかうの?」
しかし九条結衣は首を振り、真剣な表情で「お母さん、本当に考えないの?最も美しい時期を九条政のために無駄にしたんだから、今は離婚したんだし、自分のことも考えてみたら?」
「もういいわ。お母さんはもう年なんだから、そんなこと考えても仕方ないでしょう?」
小林静香は呆れた様子で言った。もうすぐ五十歳になる彼女は、離婚後、別の男性と人生の後半を過ごすことなど考えたこともなかった。また九条政のような人に出会うくらいなら、一人の方がましだと思っていた。