傷は深くなかったが、氷水で洗い流したばかりで出血は止まっていたものの、藤堂澄人は安心できず、彼女を居間へと連れて行った。
九条結衣は先ほどの脳裏に浮かんだ光景のことを考えていて、他のことに気づかないまま、藤堂澄人に連れられて居間に座らされた。
ヨードチンキが傷口に触れた刺すような痛みで、やっと先ほどの鼻血が出そうな光景から我に返った。
いつの間にか、藤堂澄人は救急箱を持ってきて、片膝をついて彼女の傷の手当てをしていた。
この角度から見ると、藤堂澄人の五官は完璧で、どこ一つ欠点を見つけることができないほどだった。
最初に彼に会った時、彼と結婚したいと決めたのは、おそらくこの顔のせいで、見た目に惹かれたのだろう。
お兄さん、私と結婚してくれない?
脳裏に、突然また自分の声が響いた。幼い頃の幼い声ではなく、今の自分の声だった。
この認識に、九条結衣は大きく震え、藤堂澄人に掴まれていた手も激しく震えた。それに気づいた藤堂澄人が顔を上げて彼女を見つめ、「痛かった?」と尋ねた。
彼の声は優しく、眼差しは言葉にできないほど温かかった。そして、この意味深な質問と、九条結衣の脳裏に浮かんだ光景が相まって、彼女の体は更に熱くなった。
「い、いいえ」
彼女は顔を真っ赤にして慌てて首を振った。藤堂澄人はようやく彼女の顔が酷く赤くなっていることに気づき、落ち着かない様子で目が泳いでいるのを見た。
彼女のふわふわした眼差しと、熟れたリンゴのように赤くなった頬を見て、藤堂澄人は何かを思い出したかのように、目の奥に笑みが広がった。
絆創膏を取り出して彼女の傷に貼り、九条結衣が手を引っ込めようとした時、手首を藤堂澄人に掴まれた。
指先で挑発するように彼女の手首を優しく撫でながら、彼女の体が硬くなっていくのを感じないふりをして、低い声で尋ねた。「何を考えていたの?顔が赤いよ」
まるで藤堂澄人に心の内を見透かされたかのように、九条結衣はソファから飛び上がり、手を素早く藤堂澄人の手から引き抜いて、慌てて弁解した。
「何も考えてないわ!何も!」
彼女の声は緊張のあまり、思わず高くなっていた。
彼女の隠しきれない様子を見て、藤堂澄人は眉を下げ、唇を噛んで、上がりかけた口角を必死に抑えながら、彼女を見上げて言った。「じゃあ、どうしてそんなに顔が赤いの?」