沈黙の後、彼女は頭の中に浮かんだ奇妙な光景を思い出し、考えれば考えるほど不安になった。
本当にあんなことが起きたのだろうか?
先ほどの食事の時、藤堂澄人が彼女を見つめていた戯けた眼差しと、彼の言った言葉を思い出すと、九条結衣はますます違和感を覚えた。
酔っていた時、本当に...あんなことをしてしまったのだろうか?
自分があんなことをし、あんな言葉を言ってしまった可能性を考えると、九条結衣は呆然としてしまった。
どうして藤堂澄人のような人にあんなことをしてしまったのだろう?
まさか、そんなはずない!
心の中でそんな可能性を否定したものの、考えれば考えるほど自信がなくなっていった。
もし何もしていないのなら、頭の中のあの光景は一体どこから来たのだろう?
九条結衣はそれ以上考えることができなかった。もし更に酷いことをしていたら、本当に人に会わせる顔がない。
キッチンから聞こえる藤堂澄人の食器を洗う音を聞きながら、こんな高い地位の男性が進んでキッチンで皿洗いをするなんて、少し見直してしまった。
思わずキッチンの方に目を向けると、その端正で背の高い姿は、キッチンという場所とは不釣り合いに見えたが、この男性が本当に魅力的だということは認めざるを得なかった。
何をしていても、生まれながらの魅力を放ち、目が離せなくなってしまう。
九条結衣は考えた。彼に一目惚れしたこと、もっと率直に言えば、それは単なる外見に惹かれただけだった。
この男性は、あまりにも魅力的すぎる。
しばらくして、彼女は藤堂澄人から視線を外した。
そのとき、体にふわふわした小さな存在が飛び乗ってきた。それは猫ベッドで寝ていた九条二郎だった。
幼稚園の親子運動会に行くため、九条結衣は九条二郎の世話ができないと心配して連れて行かなかった。帰ってきた時も、九条二郎は猫ベッドで寝ていた。
一日会っていなかったので、このふわふわした存在を見て九条結衣は自然と嬉しくなり、先ほどの藤堂澄人への怒りも幾分か和らいだ。
九条二郎を抱きしめながら優しく背中を撫でていると、また先ほど頭に浮かんだ光景を思い出してしまい、眉をひそめた。