しばらくすると、藤堂澄人は香ばしい匂いの漂うステーキを二皿持って、目尻に笑みを浮かべながら彼女の方へ歩いてきた。
「食べてみて」
九条結衣は目の前の美しく盛り付けられた洋風の朝食を見つめた。色合いが食欲をそそる組み合わせだった。
味はまだ分からないが、見た目は確かに素晴らしかった。
向かいの人の期待に満ちた眼差しを見て、九条結衣はナイフとフォークを手に取り、肉を一切れ切って口に運んだ。口に入れた瞬間、一瞬固まり、すぐに目に驚きの色が浮かんだ。
ステーキを焼くのは一見簡単そうに見えるが、実は非常に技術を要する作業だ。
火加減を適切に調整するだけでなく、肉全体を均一に柔らかく焼き上げなければならない。この点において、藤堂澄人は完璧に成功していた。
そして、ステーキにかけられた黒コショウソースは、彼女が見間違えていなければ、ステーキに付属の既製品ではなく、藤堂澄人が自作したものだった。
味は元々の既製品よりも美味しく、それは調味料で作り出された味ではなく、食材本来の旨味だった。
藤堂澄人にこんな料理の才能があるとは思わなかった。
九条結衣は何気なく藤堂澄人を見上げ、思わずもう一口食べてしまった。
「美味しい?」
藤堂澄人はすでにテーブルを回って、彼女の隣に座っていた。
九条結衣は本心に反して「まずい」と言いたかったが、口が脳よりも早く反応してしまい、「美味しい」という言葉が口をついて出てしまった。
言い終わった瞬間、彼女は固まってしまった。まるで藤堂澄人に買収されてしまったような錯覚を覚えた。
「今度も旦那さんが作ってあげるよ」
昨日から今まで、九条結衣は藤堂澄人が自分のことを「旦那さん」と呼ぶのを何度も聞いていたが、聞くたびに全身の鳥肌が立つような感覚に襲われた。
しかし、隣にいる某氏は全く気付いていないかのように、終始愉快そうな笑みを浮かべ、とても上機嫌な様子だった。
九条結衣は黙って、藤堂が作ってくれた朝食を静かに楽しむことにした。
藤堂澄人は彼女の隣に座り、横を向いて彼女が自分の手作りの朝食を食べる様子を静かに見つめていた。美味しそうに食べる彼女の姿を見ていると、彼の心も柔らかくなっていった。