532.もう彼との子供は欲しくない

藤堂澄人は今の気持ちを何と表現すればいいのか分からなかった。五臓六腑が絞られるような痛みが、瞬く間に全身に広がっていった。

彼女が自分を信用していないことは分かっていたが、後で避妊薬を飲むとは思ってもみなかった。

目の奥がしみるように痛み、呼吸をするたびに心臓が引き裂かれるような痛みを感じた。

手の中の薬の箱は、握りしめられて形が歪んでいた。

背後から浴室のドアが開く音が聞こえ、藤堂澄人の体が一瞬硬直し、ゆっくりと振り返った。

九条結衣が浴室から出てきた時、藤堂澄人が地面に半蹲みになって、彼女の上着と、そして……

彼が手に握りしめている薬の箱を見て、九条結衣の表情が一瞬変化した。浴室のドアの前に立ち止まったまま、緊張のためか両手を拳に握りしめていた。

藤堂澄人は立ち上がって彼女に向かって歩き出した。大きな体が、一歩一歩九条結衣に近づいていく。