531.避妊薬

九条結衣が断る前に、彼は彼女の肩に顎を埋め、くぐもった声で言った。「精神的な慰めだと思って。触らないって約束するから」

「だめ！」

九条結衣は考えるまでもなく、即座に断った。

再婚を承諾したのは、彼女にとって最大の妥協だった。昨夜のことは...ただの感情的な出来事だった。今、藤堂澄人と同じベッドで寝るなんて、たとえ何もしないとしても、とても違和感があった。

藤堂澄人は九条結衣が断ることを予想していた。彼も本当に彼女が同じベッドで寝ることを承諾するとは思っていなかった。ただ、彼女のそばにもう少しいる口実を探していただけだった。

「じゃあ、譲歩するよ。主寝室を使わせてくれ、俺はソファーで寝る」

藤堂澄人がこんなに話が分かるとは、九条結衣は少し意外だった。

なぜしつこく食い下がってこないの？

「今朝、再婚を承諾した時、同居すると言ったよね？まずは慣れていこう、どう？」

藤堂澄人は更に譲歩した。

九条結衣が藤堂澄人との同居を承諾したのは、年は小さいが非常に敏感な息子が、パパとママが別々の部屋で寝ていることを知れば心配するだろうと分かっていたからだ。

だから、同居することには反対しなかった。そのため、今藤堂澄人がそう言うのを聞いて、九条結衣は黙り込んでしまった。

藤堂澄人は九条結衣が今回そこまではっきりと断らないのを見て、チャンスだと感じ、さらに言い添えた：

「約束する。絶対に大人しくしているから」

もう言うことがなくなってしまった。

再婚を承諾した以上、これくらいのことができないのは、自分が少し気取りすぎているような気がした。

そう考えて、うなずいて承諾した。「いいわ」

「ありがとう、奥さん」

藤堂澄人の口角に笑みが瞬時に広がり、九条結衣の唇の端に素早くキスをした。彼女の警告するような目つきに、すぐに彼女から離れた。

「シャワーを浴びてくるわ。あなたは適当に座っていて」

そう言って、更衣室に行って部屋着を取り出し、バスルームへ向かった。

バスルームのドアの前まで来たとき、後ろから藤堂澄人の笑いを押し殺したような声が聞こえてきた。「バスルームの中に座ってもいい？」

バスルームのドアを開けかけていた九条結衣は、藤堂澄人のその言葉を聞いて、危うく転びそうになった。

この男、思い切り殴らないと、調子に乗りすぎるわ。

バーン——