車内で、宮崎裕司は九条結衣の冷たい横顔を見ながら、先ほどの彼女の言葉を思い出し、すっきりした気持ちと同時に、心配も感じていた。
「九条社長、今日あれだけの人の前で藤堂社長の名前を出して彼らを抑え込んだことが、広まったら藤堂社長の機嫌を損ねることにならないでしょうか?」
宮崎裕司の言葉に、九条結衣は一瞬戸惑った。藤堂澄人の名前を出した時は、ただこの人たちから逃れるための口実を探していただけで、藤堂澄人が怒るかどうかまでは考えていなかった。
当時、ネット上で人々が彼女のことを藤堂澄人の愛人だと言っていた時、心の中には少し意地になる気持ちがあって、そのまま愛人という立場を認めてしまった。
今、宮崎社長にそう指摘されて、やっと気づいた。
この件がネットに広まれば、彼女も藤堂澄人も、散々な非難を浴びることになるだろう。