「この詐欺師め、早く賠償金を払え。払わないと今日は帰れないぞ!」
「そうだ、詐欺師め、早く賠償金を払え。山下さんは家族の大黒柱なんだ。今は重傷を負って病院に寝ているんだぞ、逃げられると思うな」
「……」
次々と押し寄せてきて九条結衣を取り囲む人々。会社の入り口にいた人たちよりも、この数人の方が更に激しく騒いでいた。
九条結衣は目の前の群衆を冷ややかな目で見渡し、その後ろで比較的大人しくしている若者に視線を止めた。
九条結衣はその顔を覚えていた。ネット上の投稿で宮崎裕司に殴られて倒れた人物、怪我をした作業員の息子だ。
その若者は九条結衣の視線に気づいたようで、瞳孔が一瞬縮んだが、すぐに何かを思い出したかのように、胸を張って九条結衣の目をまっすぐ見返した。
九条結衣は目を伏せ、心の中で冷笑しながら、歩を進めてその若者に近づいた。