ネットでは、この女は藤堂澄人の愛人だと噂されているようだが、本当のようだ。しかも、藤堂澄人はこの愛人を可愛がっているらしく、自ら出向いてきたほどだ。
その女が藤堂澄人に建物の中へ引っ張られていくのを見て、会社の外で制止されている騒ぎを起こした群衆は、恐れ始めた。
藤堂澄人は大統領よりも手を出してはいけない大物だ。もし彼を怒らせたら、彼らのような後ろ盾のないチンピラたちは、これからやっていけるのだろうか?
九条結衣は藤堂澄人にずっと引っ張られながら階段を上がり、自分のオフィスまで来た。藤堂澄人はずっと無言で、その周りに漂う冷気に、道中で彼を見かけた人々は誰も直視できなかった。
オフィスのドアを開けても、藤堂澄人は顔を曇らせたまま一言も発しなかった。
「あの…」
九条結衣が口を開こうとした時、背後のドアが藤堂澄人に蹴られて閉まった。