549.大物を怒らせた

群衆の中から、一人が袖から中指ほどの大きさのガラス瓶を取り出し、人混みを押しのけて九条結衣の前まで突っ込んでいった。

「このあま、死んじまえ」

その声が落ちると同時に、九条結衣は思わず顔を上げ、その人物が既に開けた小さなガラス瓶を彼女に向かって投げるのを目にした。

九条結衣は胸が沈み、不吉な予感がした。

今、彼女はこの群衆に囲まれ、逃げ場はどこにもなかった。

その瞬間、彼女の手首が急に掴まれ、体が強く引っ張られた。彼女は全く反応する間もなく、その手に引かれて群衆の中から引き出された。

そして硬い胸に抱きとめられ、すぐ後ろから鋭い悲鳴が聞こえた。

九条結衣は思わず振り返り、先ほどまで彼女の後ろを塞いでいた二人が今や顔を押さえて苦しみ、むやみに叫んでいるのを見た。

濃硫酸!