552.キスで褒美を

「まだよ、飛行機から降りる前に戻ってきたの」

藤堂澄人も彼女に隠し事をせず、彼女の柔らかい体を抱きしめながら、甘えるように言った。「遠くから戻ってきて、往復26時間も飛行機に乗ったんだ。僕に何かご褒美くれない?」

九条結衣は目を上げて冷ややかに彼を見つめ、また彼が甘えようとしているのを知って言った。「大恩は言葉にせず」

「その通りだね。お礼を言う必要はない、キスしてくれるだけでご褒美になるよ」

そう言いながら、藤堂澄人は厚かましく顔を近づけてきたが、九条結衣にすぐさま手で押しのけられた。「厚かましい」

「じゃあ、唇にキスして」

そう言って、また唇を近づけてきた。九条結衣が手を上げて彼の口を押さえようとした時、手首を藤堂澄人に掴まれ、すぐさま彼女の唇にキスをされた。

彼がそのキスを深めようとした時、九条結衣の携帯が鳴った。

九条結衣が携帯を見ると、九条初の担任の田中先生からの電話で、心臓が激しく鼓動した。急いで電話に出た。

「田中先生...九条初はどうしたんですか...はい、すぐに行きます」

藤堂澄人の表情も同時に暗くなり、目に寒々しい光が走った。

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夫婦二人が九条初のいる病院に着いた時、金田部長と九条初の担任の田中先生が待っていて、彼らが来るのを見るとすぐに近寄ってきた。

「九条初は?」

「藤堂さん、ご安心ください。九条初は大丈夫です。ただ驚かされただけです」

九条初は今、病院の休憩室で待っていた。九条結衣たち二人が急いで行くと、彼はそこに座って、手に温かい牛乳を持っていた。

「パパ、ママ」

両親が来るのを見て、九条初はすぐに椅子から立ち上がり、二人の方へ走っていった。

「大丈夫だった?」

「大丈夫。小林叔母さんが僕を守ろうとして、悪い人に殴られて怪我したの。今、お医者さんが叔母さんを治療してるの」

「小林叔母さん?」

九条結衣は山下優がいるC市工科大学を思い出し、小林由香里もその学校の卒業生だった。

証拠はないものの、彼女は無意識のうちに今回の会社での騒動と小林由香里を結びつけていた。