553.藤堂社長が小林由香里を家まで送る

「じっとしていなさい。ゆっくり休んで、怪我を治してください」

「藤堂さん、藤堂奥様、ありがとうございます。私は大丈夫です。九条初が無事なら、それでいいんです」

なぜか、九条結衣が小林由香里の不純な心を知ってからは、彼女の言葉の一つ一つに深い意味を感じ取るようになっていた。

たとえば、小林由香里のこの言葉。

最初から最後まで、藤堂澄人は一言も発していなかったのに、彼女は感謝する時に必ず藤堂澄人の名前を入れ、九条初の話をする時でさえ、意図的に言及しているように感じた。

自分が考えすぎなのかもしれない。

九条結衣はその考えを口に出さず、小林由香里に言った：「九条初を助けてくれてありがとう。私たちはあなたを大切にします。ゆっくり休んでください」

「藤堂さん、藤堂奥様、ありがとうございます」

九条結衣：「……」

感謝する時に、いちいち藤堂澄人の名前を出さなくてもいいのに。

なぜか、九条結衣はそれを聞くと心が煩わしくなり、小林由香里を見ると、彼女の視線が藤堂澄人に向けられているのに気づいた。下唇を軽く噛み、怪我をした腕を押さえながら、眉をひそめて、とても可哀想そうに見えた。

その間、藤堂澄人は電話を受けに外に出ていたが、小林由香里の作り出した演技めいた様子には一瞥もくれなかった。

九条結衣は小林由香里の顔に浮かぶ悔しそうな表情を見て、心の中で首を振った。

「医者は入院が必要だと言いましたか？」

小林由香里は九条結衣の声を聞くと、慌てて視線を戻し、「いいえ、そのまま帰宅できます。奥様、ありがとうございます」と答えた。

「では、お送りしましょうか」

九条結衣がそう言うと、小林由香里の心は喜びに沸き立ったが、ちょうどその時、藤堂澄人が戻ってきた。小林由香里はすぐに顔から喜色を消し、首を振って言った：

「奥様、ありがとうございます。でも、ご迷惑をおかけしたくありません。バスで帰ります」

「それはいけません。私の息子を救ってくれたのですから」

電話から戻ってきた藤堂澄人がそう言うと、九条結衣は意味深な目で彼を見た。

小林由香里は内心喜びながら、「そんな、藤堂さんにご迷惑をおかけするわけには…」

小林由香里は慌てて手を振ったが、「痛っ！」