564.奥さんは彼が去るのを惜しむ

「行ってくるよ」

藤堂澄人はドアから出て、もう一度九条結衣の頭を撫でてから、エレベーターの方へ歩き出した。

九条結衣は元々ドアまで見送るだけのつもりだったが、エレベーターのドアが開き、彼が中に入ろうとした時、どういうわけか衝動的に追いかけて、彼を呼び止めた。

「澄人!」

藤堂澄人の足が突然止まり、振り返って彼女を見つめた。顔には愛情に満ちた笑みが浮かんでいた。

九条結衣がエレベーターの横まで追いかけた時、自分が衝動的すぎたことに気づいた。特に藤堂澄人の目に輝く笑みを見て、顔が熱くなるのを感じた。

「どうした?まだ何か言いたいことがあるの?」

彼は眉を上げ、九条結衣の赤くなりかけた耳を見つめながら、優しく尋ねた。

「べ...別に...早く帰ってきてね。あなたの...息子があなたのことばかり話すから、うるさくて」