563.藤堂澄人、もういい加減にして

藤堂澄人は九条結衣の髪に顔を埋めて、むっつりと不満を漏らした。「僕のことを気にかけてくれないような気がするんだ」

九条結衣:「……」

「藤堂澄人、もういい加減にして!」

「まだまだ!」

頭上から聞こえてくる低い声に、九条結衣は藤堂澄人の抱擁がさらに強くなるのを感じた。

「じゃあ、言ってよ。僕のことを気にかけてくれてるの?」

まるで子供のように、しつこく迫ってきた彼の声を聞いて、九条結衣は思わず蹴飛ばしたくなった。

「藤堂澄人……」

「答えて」

むっつりとした声には、頑固な強引さが混ざっていて、九条結衣から明確な答えを引き出さなければ気が済まないようだった。

「気にかけてるわよ、気にかけてる。これでいい?早く離してよ」

藤堂澄人が彼女の答えに満足したのかどうかは分からないが、本当に彼女から手を放した。

「じゃあ、行くよ」

「どこへ?」

九条結衣は思わず口をついて尋ねた。

「サンフランシスコだ。飛行機が待機場で待ってる」

九条結衣はようやく、藤堂澄人が彼女の問題を解決するために遠路はるばる戻ってきたことを思い出した。アメリカでは山積みの仕事が彼を待っているのだ。

往復26時間もフライトして、その後も彼女のために多くの問題を処理し、まともに休むこともできなかったことを考えると。

今は昼の12時で、サンフランシスコはだいたい夜の9時頃。サンフランシスコに着くのは現地時間の午後1時過ぎで、休む暇もなく仕事に取り掛からなければならない。

そう考えると、九条結衣の胸に密かな痛みが走った。

しかし、サンフランシスコの案件が急を要することも分かっていたので、彼を引き止めることはできなかった。

「機内でゆっくり休んでね」

このとき、彼の少し荒れた様子に気づいた。顎にはうっすらと髭が生え、目の下には赤い血走りが浮かんでいた。明らかにアメリカから戻ってきたこの十数時間、彼は一睡もしていなかったのだ。

彼女のことを心配していたからだろうか?

そう考えると、九条結衣の胸がまた締め付けられるような思いになった。

藤堂澄人は九条結衣のその簡単な言葉の中に隠された思いやりを感じ取り、沈んでいた気分が一瞬で明るくなった。

「うん」